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今井聡志 Satoshi Imai Profile

2012年07月11日

ふうちゃん


「ふうちゃんの家、燃えちゃったよ」

30年ぶりに小学校時代まで過ごした町に戻った。
千葉県と茨城県の県境、利根川を望む千葉の小さな町だ。
その時、料理屋「かねた屋」に立ち寄った。
町では唯一の老舗料理屋だ。
この「かねた屋」の跡継ぎは、オレの幼友達であるタカユキ。
30年ぶりにタカユキを訪ねた時,
ふうちゃんの家が放火で燃えてしまった話を聞いたのだ。
もう10年ほど前のことだという。


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ふうちゃんは、オレが小学校1年の頃に、小学校6年だったので、オレの5つ上。
5つも上なので、本名は知らない。
ただ肥満した大きなカラダから、ふうちゃんと呼ばれていた。

利根川の支流、長門川の土手際にふうちゃんの家はあった。
地元で江戸時代から続く醤油工場の隣だ。
小さな家で、いつも近所には醤油の臭いがしていた。

ふうちゃんは、オレにとってはマンガのジャイアンのような存在だった。
大きくて、力が強くて、時々かっとなって威張り散らす。
小学校1年のオレにとっては、まさにジャイアン。
ただマンガのジャイアンと違うのは、ふうちゃんの同学年の子供たちからは、まったく相手にされていなかった。
カラダは大きいが、頭も悪く、運動も出来ず、、バカにされていたようだ。
だから小学校6年にもなって、小学校1年のオレを相手に遊んでいた。

そんなふうちゃん。

夏休みのラジオ体操。
毎日出席してハンコを全部押してもらえると、ジュースとお菓子をもらえるとあって、オレは必ず参加した。
ふうちゃんは、いつもさぼりだ。
でもふと顔を出した時は、体操が終わるのを広場近くのお店のベンチに座って待っている。

ラジオ体操が終わると「サトシ、一緒にカブト虫を捕りに行こう!」

田園や森が多い田舎町だが、ふうちゃんは一番カブト虫が捕れる場所を知っている。
それは変電所だ。
フェンスで囲まれた変電所には、朝方、なぜかカブト虫がたくさん転がっている。
夜でも照明が光々としているだろうか。
ラジオ体操の広場から、街角を曲がってほんの200mほどの畑の中に変電所がある。
ただカブト虫がいるのは、高く囲まれたフェンスの中だ。
ふうちゃんがオレを待っていた理由は、このフェンスだ。
オレが、早朝から作業をしている作業員に、「すみません、そこのカブト虫捕ってもらえますか?」とお願いをする。
ふうちゃんは、近くに隠れて姿を見せない。
やさしい作業員のおじちゃんが、オレに数匹のカブト虫を持ってきてくれる。
「ありがとうございます!」
おじちゃんも嬉しそうにオレに頭をなででくれる。
でもそのカブト虫を、そっくりそのまま横取りするのが、ふうちゃんだ。
オレには一匹もくれない。
不満げな顔をすると、「なんか文句あんのか!?」
その大きなカラダで、オレを押し倒す。
ふうちゃんには逆らえない。
オレはふうちゃんの子分だ。

屈辱はない。

屈辱を感じないほどに、年が離れていたから。


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ある事件があった。
それはオレにとっては大きな事件だったが、ふうちゃんにとっては、実は日常のことだったのかも知れない。
ある日曜日の夕暮れ、町内の広場に、いつもの近所の小学生たちで草野球をしていた。
小学校1年のオレから6年生まで、いつも日曜日の午後は、この広場に集まって草野球をしていた。
その日、まったく打てないふうちゃん。
チャンスになるとふうちゃんの打席が回ってくる。
もともと運動が苦手のふうちゃんは、三振か、良くて内野ゴロばかりだ。
そんなふうちゃんにしびれをきたせた同級生数人から、ふうちゃんはこてんぱんに殴られた。
ぼろ屑のように扱われ、地べたに這いつくばっているふうちゃん。
みなが足蹴にする。
目は悔し涙でいっぱいだった。

小学校1年のオレがヘマをしても、みな「サトシはお豆さんだから、どんまい、どんまい!」と優しいのに、ふうちゃんには、みながつらくあたった。
オレの目にも涙が。

がんばれ、がんばれ、がんばれ、がんばれ、ふうちゃん!!

何もできず、ただただふうちゃんがしばかれているのを遠くから見ていたオレ。
その時、ふと顔をあげたふうちゃんと目が合ったような気がする。
それでも何もできないオレがいた。


その事件以来、ふうちゃんと遊ぶことはなくなった。


ふうちゃんは中学生になり、オレの知らない間に高校生になった。
「よう、サトシじゃねぇか」
ある日の下校時、町で出会ったふうちゃんは、ダボダボの学生服にリーゼント、とがった革靴を履いていた。
隣町の農業高校へ進学したようだ。
ただ、ふうちゃん家は農家ではなかったけど、、。

オレは小学校4年生。
まだランドセルを背負っていた。
「おめえ、まだまだガキだなぁ」。

きっと、ふうちゃんとオレが話したのは、それが最後だったと思う。

ふうちゃんは、オレが小学校5年の頃には、高校を中退して、料理屋「かねた屋」で下働きをしていた。
タカユキの家に遊びに行くと、そこにふうちゃんがいた。
いつも長靴に魚の血で汚れた前掛け姿。
目を合わせてはいけない気がして、オレはタカユキの家に入るまでは、こそこそとしていた。
タカユキによると、ふうちゃんは「かねた屋」は1年もしないうちに辞めた。


ふうちゃんの家に火を放ったのは妹だという。
えーー!マジで!
ふうちゃんに妹がいたの??


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そうみたい。
オレも知らなかったけど、自閉症の妹がいたみたいだよ。


3つ下に妹がいたふうちゃん。
オレは小学校卒業時に町を離れたが、それまでまったく知らなかった。

ふうちゃんの家は、いまは何もない。

隣の醤油工場も、いまはない。


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(10% ふぃくしょんです)

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posted by RainDogs at 00:43| Comment(0) | ストーリー | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする